通勤ラッシュを避けるために早くおきて町を歩いた。ビルの輪郭に切り刻まれた空は群青とオレンジのグラディエーションをしていて「世界は美しい」と思った。

学生時代に旅をした時はいつも遠足に行く子供のように日の出と共に起きていた。毎朝、少し鋭い朝の空気の中で日の出に染まる空を見て世界の美しさに圧倒されていた。


ふと路地を見ると腹巻を巻いたおっさんが猫を抱き上げてキスをしていた。見ているこっちがはずかしくなるくらいやさしいキスをしていた。抱き上げられた猫は給餌前の儀式を淡々と無表情にこなしていた。


オープンカーに乗せてもらった。新しいおもちゃを手に入れて喜ぶ50代のおっさんの隣で風に吹かれて青空を見上げるというのはなかなかいいものだった。


夜は少し肌寒く夏を追い出そうとするような少し強めの風がビルにぶつかり街路樹を揺らしている。もう秋かなと思うけれど今日、丸かじりした梨はまだまだあまい大根のようで手を滴る果汁もなんだかさらりとしていた。

梨がまだまだ本気じゃないから自分の秋認定はしたくない。


こっちはまん丸なお月様が見えているけれどそっちも見えているかな。空の真上で輝く月を見ていると僕はいろんなことがこの一瞬だけだけれど「悪くない」と思えるよ。